第16話 女としての仕事

祐奈は何度か東原からの電話を受け、東原にシティーホテルで抱かれた。グランドロイヤルという高級なホテルだ。

「お前を会社で事務で働かせることにした。お前は女の世界に馴染まないといけないからな。なに、簡単な入力作業やお茶汲みだ。9時5時の仕事だ。目的は仕事じゃない。そこの女たちと仲良くなることだ。お前の友達はこれからは全て女なのだからな」

その晩の東原は、激しく祐奈を求めてきた。祐奈は自分でするオナニーも好きだったが、東原に抱かれるのはもっと好きになっていた。男の匂い、男の肉棒が膣の中に入っていく感覚、奥をずんずんと突かれる感覚が好きだった。バイブやディルドーでは味わえないものだ。東原を愛しているのかどうかはわからなかった。ただ、一緒にいると心地よい。セックスも楽しい。ただ、男だった頃、女に感じていたドキドキは、まだ男に対して感じたことはない。

翌週の月曜日から、山吹祐奈として、都心の岡山商事というところで、非常勤社員として簡単な事務仕事をすることになった。前日には、お化粧や、仕草などを彩音から教わった。制服は職場のロッカーにあるということで、普段着での出勤になる。普通の女性が、普段どんな格好で出勤しているかなど、祐奈にわかるわけはなかった。彩音に教わり、なるべく地味で目立たない、それでいて女性らしいフェミニンな服を選んだ。持っていくバッグもなるべく地味なショルダーバッグにした。派手なものを持っていくと同僚の女性社員のやっかみの対象になる。

髪はストレートロングで、ゆったりしたスカートと、刺繍の入った可愛らしいブラウスを選んだ。通勤は近くのバス停からバス1本でいける。定期も祐奈名義で祐奈のカードで購入した。

初出勤の朝、祐奈は彩音と一緒に朝ごはんを食べて歯を磨き、髪をシュシュでまとめ、ストッキングを履いた足に滑らないようにカバーを履いて、3センチのベージュのヒールを履いた。バッグにはいろいろなものを入れた。ストッキングの替え、おりものシート、化粧品、スマホ、お財布など。結構、ショルダーバッグはぱんぱんになっている。

祐奈にはこれが女の社会へのデビューだった。男として働いていたことはあるが、女として働くのは初めてだった。女性社員といろいろと接してきたが、彼女たちの輪に入っていくことはできなかった。これからは、女として、同性として女性の社員の輪に入っていくのだ。女性としてデビューすることに緊張を覚えていた。

外は暑い。祐奈はバス停で日傘をさしてバスを待った。慣れないスカートがすーすーする。日傘をさすのは初めてだが、これは女性なら当たり前なのだ。バスが来ると、乗り込んで、定期のカードをICカードのところへかざした。東町1丁目のところへくると、ブザーを押して、祐奈はカードをかざして降りた。ここが祐奈がこれから働く会社なのだ。簡単な仕事で9時5時の仕事とはいえ、緊張する。理子や美香は親友だが、そうでない女性と、女性としてどう接していいのかは、祐奈には未知の世界だった。

バスを降りて周りを見回すと、すぐ近くに岡山商事はあった。大きなビルだ。東原の持っている会社の一つ、その中でも小さなほうだ。祐奈は慣れないヒールをかつかつ鳴らして、会社の方へ歩いていく。正面のドアを入り、受付に向かった。

「今日から、こちらで働かせてもらうことになった山吹祐奈です」

「少々お待ちください」

美しく化粧した受付嬢が、どこかへ電話している。

「今、人事のものがきますのでお待ちください」

しばらく待つと、スーツを着た男がやってきた。

「山吹祐奈さんだね。私は第2営業部経理課課長の篠崎大輔だ。君は私の下でアルバイトとして働いてもらう。高田冴子が君の指導係だ。部署は2階だ」

そう言って、祐奈の前を歩いていく。そして、階段を登っていく。祐奈もなれないヒールを鳴らして階段を登る。経理課へ入ると、篠崎課長が祐奈を全員に紹介した。課としては20名ぐらいいる。男は全員スーツを着ているが、女子は制服があり、お揃いのスカートとブラウス、ベストに可愛らしいリボンをしている。この会社は女にだけ制服があるようだった。祐奈が挨拶をすると、一人の女が祐奈の前に現れた。

「私があなたの指導係、高田冴子よ。よろしくね。わからないことがあったら聞いて。まずは、女子の制服に着替えてね。用意してあるわ。私について来て」

冴子に連れられて、女子更衣室に入った。

「そこのロッカーに入っているから着替えてね。そうしたら、関係のある部署を案内するわ」

祐奈は冴子の目の前で着替えることになった。ロッカーにバッグを入れるとブラウスとスカートを脱いでブラとショーツ、ストッキングだけになり、制服のブラウスとスカートを身につけて、ベストを着て、リボンを身につけた。女に見られながら、女子更衣室で着替えるのは恥ずかしかった。これからは毎日、この更衣室で、女に見られながら、そして女の着替えを見ながら着替えるのだ。祐奈は女子更衣室で着替えるのが当たり前の女なのだ。

祐奈が着替え終わると、関係する部署を回って、挨拶をした。これからは祐奈はアルバイトして、書類をあちこちに持って行ったりしないといけない。顔を覚えてもらうことが第一だ。

部署周りが済むと、冴子にエクセルの入力の仕事を任された。男だった時にはよくやっていた仕事だ。祐奈が仕事をうまくこなしていった。男子社員に頼まれてコピー取りや、来客があったときのお茶だしなどをした。お昼になると女子社員が集まってきた。

「祐奈さん、一緒にお昼に行かない?近くにおいしいお店をしっているの」

「はい、一緒にいきます。よろしくお願いします」

緊張して祐奈が言ったので、祐奈を取り囲む女子が笑った。祐奈は、更衣室のロッカーのバッグの中からお財布だけを取り出して、女子たちについていった。女はお財布だけをもって、ランチにいく。男だった時によく見かけた光景だった。スカートには尻ポケットがないからしかたがないのか、と思いながら見ていた。しかし、今はそういう女の一員だった。

女の中には正社員ではなく、アルバイトの子もいた。小林依子と畠田舞がそうだった。帰りは定時の5時退社だった。なので、女子更衣室での着替えも一緒だ。依子は水色のフリルのついた可愛らしいブラとお揃いのショーツをつけている。舞はピンク色の女の子らしいブラとショーツだ。それに可愛らしいキャミを着ている。祐奈は私服に着替えながら、二人の下着姿をちらちらと見た。

「祐奈さん、一緒にお茶してから帰らない?」

依子が声をかけた。

「ええ、いいわよ」

祐奈は依子と舞と、帰りがけに喫茶店に入り、おしゃべりに花を咲かせた。それは社内のいろいろな噂ばなしだった。

「うちの男たちはずっと祐奈のことを見ているわよ。いやらしい視線で見ているやつもいるわ」

と舞。

「祐奈は綺麗だから、うちの男たちには気をつけてね。みんな若い女がきたから狙っているのよ。祐奈は彼氏はいるの?」

と依子。

「彼氏はいます」

と恥ずかしそうに祐奈は答えた。二人ともそれ以上は詮索してはこなかった。その日から、祐奈は会社の女子の世界に溶け込んで行った。男はもう、異性であり、気軽に話しかけられる相手ではないのだ。女の友達は女なのだ。

祐奈が会社に馴染み始めた頃、祐奈が彩音と一緒に夕食を食べていると、彩音が言った。

「そろそろお母さんに会うときね。こんなに元気になったし、女子のお友達も増えたし。ちゃんと祐奈としてやれているわ」

「お母さんにあったら、偽物だとすぐにわかってしまうわ。実の母の目はごまかせないわ」

「なんの心配もいらないわ。大丈夫。普通に会って、お母さんって接してあげればいいの。祐奈は、お母さんのことを、お母さんって呼んでいたわ」

祐奈は不安を抱えながら、祐奈の母に会うことになった。

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