第8話 茜の高校時代

茜は婚約の話を美樹たち友達に話をした。美樹にも婚約者がいる。学園祭にきてくれることになっている。

「よかったわね。茜。婚約者ができて、学園祭にもきてくれるなんて」

「学園祭の模擬店に来てもらうわ。クッキーを焼くことになっているの」

茜はすっかり女子だった。ほとんどの女子が進学せず結婚するこの学校では結婚式はどうするか、ウエディングドレスはどんなのがいいかが話題の中心になっている。卒業と同時にくる現実なのだ。男だったら、ウエディングドレスなどに高校時代から関心を持ったりなど絶対にしないだろう。でも、この学校では、休み時間に結婚式特集などが載った雑誌を見て、話に花を咲かせるのだ。

茜もその輪に加わり、このウエディングドレスが可愛いなどといっている。婚約者がでいたことで、その妄想は現実味を帯びていく。

荒井手幸雄は荒井手家の次男で、高島幸伸の会社の副社長をしている。ぼんぼんだが、やり手の経営者だ。高島幸伸がお見合い相手に茜を勧めてきた。恵子は大学に行きたいと言っている。もし、茜を気に入ってもらえれば、高島の家を継がせるつもりだ。幸雄は女には不自由していなかった。でも、社長の娘となれば話は別だった。写真からするに、普通の可愛らしい娘だった。

幸雄は特殊な性癖があった。ニューハーフ好きなのだ。もちろん、ニューハーフから女になった男と結婚するつもりなどない。実生活では、実利をとるのだ。

幸雄は高島茜について調べた。中学2年のときに宮城から転校とある。宮城で茜の足跡を辿ろうとするとぷっつり切れてしまうのだ。茜は姉の恵子と一緒に養女にもらわれてきたようだった。茜と恵子には血の繋がりはない。そして、恵子には2卵生双子の兄、洋一がいた。洋一は恵子と茜がもらわれてくるちょうどそのあたりに亡くなっている。もしかすると、茜は洋一なのかもしれない。男だった洋一が女にさせて、高島幸伸の養女になっているのかもしれない。そう考えると幸雄はすごくぞくぞくした。そういう思いは、幸雄を茜との結婚に積極的な気持ちにさせた。

学園祭当日に幸雄は一人でやってきた。茜は模擬店をやっている場所を教えておいたので、幸雄はそこに姿を現した。美樹や華がうれしそうな声をあげる。

「あの人が婚約者なのね。かっこいいわね」

茜はうれしそうにいそいそと幸雄に近づいて行く。

「来てくれてうれしいわ。ここでお茶したら、学校を案内してあげますね」

茜は紅茶を注ぎ、売り物のクッキーを用意して幸雄の元に運んだ。

幸雄は茜をしげしげと見た。少し大きい女の子だ。胸も大きい。でも、男だったという痕跡は微塵もなかった。少し大きいといっても、周りの女子からすればいくらか大きいというだけで、特別に大きいわけではない。顔立ちも体つきもどこからどう見ても普通の女の子だ。もし、この子がかつては男だったとすれば、どれだけ興奮するか、彼女と結婚するのにどれだけの価値があるか。でも、それはありえそうもない気がした。どこからどう見ても普通の女の子なのだ。

模擬店で、一緒にクッキーを食べ、紅茶を飲み干すと、クラスメイトにあとは任せるね、と言って、茜は幸雄に校舎を案内した。クラスメイトもそれぞれの婚約者が来た時はこんな感じだから、茜のことを悪く言ったりはしない。美樹も華も婚約者が来て、校内を楽しそうに案内して回ったのだ。

幸雄は茜の隣で、茜の匂いを嗅いだ。女の子特有の甘酸っぱい匂いがする。やっぱり茜は普通の女の子かもしれなかった。この子が男の子だったはずはないだろうと思ってしまう。

茜は卒業するまで、何度か幸雄をデートをした。親の許嫁と結婚するということに微塵も不信感をもっていない。男の人と結婚するということ自体が楽しいイベントであるみたいだ。幸雄が優しい男であることも茜を楽しい気分にさせた。部屋では結婚雑誌をよく開くようになった。ウエディングドレスの特集や式場、ハネムーンの記事まで眺めている。

「茜は本当に、結婚することが楽しそうね。私なら親に決められた結婚なんて嫌だけどな。ちゃんと育ててくれたんだから、大学をでたら、親の決めた相手と結婚するけど」

「すごく楽しい気分よ。結婚するってこんな楽しい気分なのね。親が決めたなんて関係ないわ。結婚したら、幸雄さんといろいろなことしたいな」

「本当に茜はすっかり女の子ね。ウエディングドレスを見たり、式場を調べたり。お兄ちゃんだったなんて信じられないわ」

その日、茜は、姉、恵子とお風呂に入った。

「茜はおっぱいだいぶ大きくなっているわね。それにお肌もすべすべ」

湯船に入って、恵子が後ろから乳房を触ってきた。ついでにぷっくらした乳首を摘んだ。

「だめ、感じちゃうから。触らないで」

「茜をここで気持ちよくしてあげる」

恵子はぷっくらした茜の乳首をこりこりと押しつぶした。ああっ、と茜が声をあげる。恵子はまるまるとした茜のお尻を撫で回した。

「おしりも大きくなったわね」

荒井手幸雄はある日、社長の高島幸伸に料亭に呼び出された。

「うちの茜は気に入ってもらえたかい?」

「ええ、奥さんにするのがもったいないような子で」

「実は茜には秘密があるんだ。それを聞いて嫌なら断ってもらって構わない」

「ええ、秘密ですか?」

「茜は実は男の子だったんだ。でも、今ではすっかり女の子だ。後継も産めるし、乳もでるようになる。普通の女となんら変わらない。優しくていい子だよ。君が茜の過去をさぐっていると聞いたのでね」

幸雄は嬉しさが顔に出てしまいそうだった。なるべく平静を装おうとした。内心では女になった男を妻にできるというのは喜びだった。男だったのが今ではすっかり女になって、女のようにお腹が大きくなり、子を産み、乳がでるようになるのだ。

「ちょ、ちょっと驚きましたが、茜さんはすっかり女性ですよ。結婚には何の問題もありませんよ。僕は茜さんと結婚したいと思っています」

幸雄は茜の父、幸伸の前ではっきりそう言った。

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