百合色の人生ー女児としての釈放ー

 東堂の性転換手術は、下半身麻酔で東堂の目の前で始められた。目の前でブルーの手術着を着た医師が鮮やかな手さばきで東堂のペニスを解体していく。メスを入れられたペニスはバナナのように剥かれ、その内部の肉色が鮮やかに見える。海綿体が取り出され、尿道、精管が分離される。メスは陰嚢も切り裂き、2つの精巣が取り出される。医師は、取り出した海綿体や精巣をシャーレに入れて東堂の目の前に持ってきた。血まみれのまるっこくてぐにゃっとした白子のような精巣や海綿体。東堂はもはや男ではなかった。

「もうこれで男の世界とはおさらばだ。あとはちゃんとやっておく」

 医師は、麻酔用のマスクで東堂の鼻と口を覆った。すぐに東堂は眠りに落ちた。

 東堂が目を覚ますと、そこは一人部屋の病室だった。シーツに覆われた体からは何本ものチューブが伸び、機械に繋がれていた。天井からはLED照明が部屋を明るく照らしている。窓にはカーテンがかかっている。夜みたいだ。股間部分がズキズキと激しく痛む。もう俺は男ではないのだ。そう思うと悲しかった。股間に手を当ててみる気分にはなれなかった。股間からもチューブが伸びている。たぶん、小便をとっているのだろう。顔は包帯に覆われていた。女性のような顔に整形したのかもしれない。股間の痛みに耐えてじっとしていると、看護婦が見回りに来た。東堂が目を覚ましたことに気がついた。看護婦は東堂に声をかけた。

「大丈夫?東堂さん」

「ああ、麻酔が切れたようで股間が痛い。顔も手術したのかな」

「今、ドクターを呼んできますね」

そう言って、看護婦は出て行ってしまった。しばらくして、看護婦が医師と一緒に戻ってきた。医師は東堂の瞳孔をペンライトで確認し、東堂からつながっているモニターを確認した。

「大丈夫だ。問題ない。鎮痛剤を打っておこう。2、3日後には自分でトイレに行けるようになる。顔も少し整形しておいた。本格的な整形手術はこれからだ。体力が回復したらまた手術がまっているからな。手術、体力が回復したらまた手術になるから覚悟しておけよ」

「今晩はお腹が空いていると思うから夜食のおかゆをつくってあげるわね。トイレにいけるようになったら、おしっこの仕方を教えてあげるわ」

医師と看護婦は出て行った。看護婦は別の看護婦をつれて、おかゆと鎮痛剤の注射器をもって戻ってきた。

「鎮痛剤の注射を打つわ。これで少しは楽になるわ」

 さっきの看護婦が東堂の左腕に注射をうった。もう一人の看護婦は

「おかゆを作ってきたからたべてね」

そういって、トレイに乗せて持ってきたおかゆをれんげにとって、ふーふーと覚まして、東堂の口元に運んだ。卵のはいったおかゆだった。おいしかった。東堂はおかゆを全部平らげた。

「明日からは朝、昼、晩と食事がでるわ。次の手術は1週間後ぐらいかな。体力をつけておかないとね」

 おかゆを食べさせた看護婦が笑ってそう言った。

 翌朝は、カーテンが開かれて、窓から朝の風景が見えた。窓からは山並みがみえる。女性化の研究所は山の中にあるようだった。女性化の手術は1回で終わると思っていた。研究所では自由に過ごせ、抜け出す機会もあると思っていた。しかしそれは完全な見込み違いだった。昨日かおとといのペニスを解体する手術の影響で股間がずきずきと痛く、体も弱っていて自由に歩くどころではない。その日のうちに、東堂からつながっているチューブや線の何本かがはずされた。毎日の女性ホルモンの注射が始まった。東堂は看護婦にカレンダーを持ってきてもらうようお願いした。今日は2月20日だった。

 三日後に東堂は初めてベッドを降りた。看護婦に付き添われて初めてトイレに行くのだ。しばらく歩かなかったせいで足がフラフラする。看護婦に付き添われて、初めての女子トイレにはいる。東堂は初めての女子トイレにどきどきした。なにかまずいことをしているような気になった。周りをきょろきょろみまわした。

「大丈夫ですよ。東堂さんは女の子になるんですから」

看護婦はにこにこしている。看護婦は東堂を個室につれていった。トイレの個室は思った以上にひろびろしている。東堂と看護婦、二人が余裕で入れるほどの広さだ。

「さあ、すわって。病院着のズボンと、ショーツを脱いでくださいね」

東堂は便器に座ると、看護婦に見られてすごく恥ずかしいが、仕方なく病院着のズボンを下ろした。その下には小さなピンク色をしたショーツをはかされている。東堂は顔から火が出るほど恥ずかしかった。それでも、尿意は我慢できなかった。東堂は小さなショーツを下ろした。そこにはやはりなにもなかった。男のシンボルはきれいに切り取られていた。

「さあ、中腰になって。びらびらを左右に開いて、おしっこの穴をむき出しにするの」

東堂は自分の排泄を女子に見られるのは顔から火が出るほどはずかしかった。それでも尿意には勝てなかった。おずおずと新しく作られた女性器に手を持っていく。ただの割れ目だと思っていたがそうではない。左右のピンクのびらびらが合わさってぺっかりと蓋をしている。東堂はびらびらを左右にひらいて、その中に秘められた新たに穿たれたおしっこ穴をむき出しにし、中腰でおしっこ穴を便器に向けた。そろそろ我慢も限界だった。一気におしっこ穴からおしっこが勢いよく噴き出した。少し跳ねたが、なんとか便器のなかに収まった。

「最初にしてはうまいわね。さあ、ティッシュできれいに拭いてね。女の子はいつもおしっこの後はティッシュできれいに拭くのよ。これから女の子の生活になれていかないとね」

看護婦はティッシュをとって、初めておしっこをして濡れているおまんこをきれいにふいてくれた。

「これからは自分でできるわよね?』

看護婦はそう言って微笑んだ。

「ああ、大丈夫」

東堂は作り笑いで答えた。これからは生活が次第に女性化していくのだ。もう引き返せないのだ。東堂は看護婦に連れられてベッドに戻った。しばらく自由な生活がつづく。体力が回復していく。次の日に顔の包帯がとれた。トイレに行くときに、鏡を覗き込むといくらか女らしい顔になっている。男らしい尖った顔が丸みを帯びている。

 体力を回復した東堂には次の手術が待っていた。

 5月の中頃に急に東堂は腹痛に苦しんだ。お腹がちくちくと痛む。最初は食事を疑ったが、なにも悪いものをたべた気配はなかった。東堂はこれまで食べ物に当たったことなどなかった。胃腸は強い方だと自負していた。腹痛は和らぐかと思うと強くなり、波のように押し寄せてくる。頭痛もしてくる。トイレに行こうとベッドから降りようとすると、シーツが真っ赤な血で染まっている。何かの手術が失敗したのだ。体のどこかが破れて出血しているのだ。東堂は慌ててナースコールで看護婦を呼んだ。やってきた看護婦は、ベッドを染める血と、東堂の白い太ももから流れる血を見て言った。

「初めての生理ね。おめでとう。これで女の子になったのね。シーツを変えてあげるわ。ナプキンを持ってきてあげるわね」

 そういって看護婦は出て行った。東堂は思った、本当に女になってしまったのだ。たぶん、最初の手術で子宮が埋め込まれたのだろう。女性ホルモン、卵胞ホルモンと黄体ホルモンを毎日注射され、子宮が目を覚ましたのだ。これからは毎月、生理に悩まされることになるのだ。看護婦は別の看護婦と一緒にシーツとショーツ、ナプキンを持って入ってきた。

「おめでとう。女の子になったのね」

別の看護婦が言った。東堂をベッドから立たせると、二人掛かりで血まみれのシーツを新しいものに取り替えた。血は思った以上に広がっていた。

「一緒におトイレに行って、ナプキンを貼りましょう」

その看護婦は東堂が女として初めてのおしっこに立ち会ってくれた看護婦だった。

「と、トイレに行きたんだけど」

「いいわ。外で待ってる。行きましょう」

東堂とその看護婦は女子トイレの中に入っていった。東堂は洗面所の鏡をみた。どう見ても女にしか見えない顔になっている。乳房もお椀型に盛り上がり、病院着の上着に女性らしい陰影を落としている。東堂は個室に入り、ズボンを下ろして中腰になり、びらびらを開いておしっこをした。膣のところは血液で真っ赤に染まっている。おしっこが終わると、おしっこだけでなく血液もティッシュで拭き取った。ティッシュをトイレに流すと、外で待っている看護婦を呼んだ。看護婦が入ってきた。

「さあ、よく見ていてね。これからは自分でやるんだから」

新しいショーツにシートを剥がしてナプキンを貼り付けると東堂に渡した。

「さあ、これでおわり。サイドテーブルに置いておくから、トイレのたびに取り替えること。生理は5日ぐらいで終わるわ。それが終わったら、おりものシートをつけるのよ」

 看護婦が微笑んだ。

「お、おりものシート?」

「女の膣穴からは分泌物がでるの。おりものっていうのよ。それをつけていないとショーツが汚れてしまうわよ」

 東堂は女の体で生活するのは面倒くさいと感じた。これからずっと、生理に悩まされなればならないのだ。その夜の夕飯にはお赤飯がでた。医師や看護婦がやってきて女になったことを祝ってくれた。サイドテーブルには生理用ナプキンとおりものシートが置かれた。

「明日、詳しく検査をしよう。君に埋め込んだ子宮が女性ホルモンの影響で目を覚ましたのだろう」

 医師がそう言った。

 翌日、医師は東堂を分娩台に座らせて、両足を広げて膣内を詳しく観察した。

「大丈夫だ。なんの問題もない。子宮はちゃんと動き始めている。これで君は本当に女になったのだ。でも、やらなければならない手術はまだまだある。がんばってくれ」

 季節は夏になった。何度かの手術で東堂は女らしくなっていった。看護婦が入ってきた。

「次の手術は大手術よ。これが終わると後少し。しばらく歩けなくなるわ。そしてリハビリが必要になるの」

 手術は大掛かりなものだった。東堂にとっては眠って、目がさめるだけだったが。目がさめると、両手両足が包帯にギブスでぎっしり固められていた。首にも包帯が巻かれ喋れなくなっていた。体からは何本ものチューブがつながれていた。こんなことは最初のペニスの解体手術以来初めてだった。麻酔が切れると身体中がずきずきと激しく痛んだ。東堂が目が覚めたことがわかると、看護婦は鎮痛剤を注射してくれた。両手が使えないため、看護婦が東堂に食事を食べさせた。

 ベッドにつながれたまま苦痛の3週間がすぎ、ギブスがとれた。自分の両手両足を見たとき、東堂は自分の目がおかしいのかと思った。両手両足がすごく小さくなっているのだ。目をこすって、もう一度自分の腕から手にかけてを見てみたが、確かに小さくなっている。手もかわいらしいぷくぷくした手になっている。まるで幼女の手だ。太ももから足先にかけても小さくなっている。ふともももすねもすべすべしている。足のサイズにだいぶ小さくなっている。

医師が言った。

「骨はちゃんとくっついている。神経も問題ないだろう。これで歩けるようになるにはリハビリが必要だ。明日からリハビリをがんばれ」

「ど、どういう手術をしたんだ」

そういう東堂の声は可愛らしい鈴の音を転がすような声だった。その声で男らしくしゃべったので、医師も看護婦もつられて笑った。

「手の骨を削り、足も短くし、背骨も短くした。身長は155センチぐらいになっている。20センチぐらい縮まったはずだ。声も女の子らしいソプラノになった。手術は成功だ」

 東堂はすっかり女の子に改造されてしまったのかと思うと悲しくなった。

 その日から東堂のリハビリが始まった。看護婦に車椅子に乗せられてリハビリ室にむかう。リハビリ室はあちこちに鏡があり、自分の姿が映る。鏡に映った東堂の姿は、小学生高学年女子か中学生女子といった感じだった。理学療法士の女性が東堂のリハビリを手伝う。足に力が入らず、棒につかまって歩くのも一苦労だ。毎日、2時間ぐらい歩行の練習をする。終わると、車椅子で病室に戻る。

 ある日、東堂が車椅子でトイレに向かうとき、小学校高学年くらいの女の子に出会った。この施設には女の子はいないはず。東堂と同じ女性化の手術をうけた男だ。彼女の方から声をかけてきた。

「手術を受けたの?だいぶ可愛らしい女の子になったね」

鈴の音が転がるような可愛らしいソプラノの声で話しかけてくる。

「君も女性化の刑を受けたのか?」

「ああ、そろそろ出所が近いんだ。もしかしたら、小学生にさせられるかもしれない。不安なんだ。小学生の女子として生きるなんて耐えられない」

「俺もそうなるかもしれない。今はリハビリ中だからまだ先になるけど」

「これからはたまに会おう。同じ刑を受けたもの同士。ここでは仲良くしよう」

「俺は東堂健。よろしく」

「俺は北条明。そろそろ女の子としての名前が決まりそうなんだ」

北条明は寂しそうだった。それからは東堂は北条明と会うようになった。会う時間は東堂のリハビリの後、リハビリ室で会うことにした。

リハビリに苦しんでいる東堂にとって北条明と会うことは楽しみになっていた。北条はどうみても小さな女の子にしかみえない。女の子と話すのは楽しみだった。といって、北条は元々男だったのだが。北条からは若い娘特有の香りがする。それはかつて東堂を狂わせた匂いだった。しかし東堂自身も同じ匂いがするようになっていた。北条との話題は、女になってからの体の変化だった。生理やおりもの、そして柔らかく隆起した乳房、その中心のぷっくらした乳首、その裾野に広がる乳輪。そして、縮められた身長。北条も東堂と同じような手術を受け身長を約20センチ縮められた。小学5年生といっても通用するだろう。そしてお互いの将来の不安を語り合った。

 季節は秋に入り、東堂はなんとか自力で歩けるようになった。ある日を境に北条が姿を見せなくなった。

 東堂がリハビリ室で歩行訓練を続けていると、久しぶりに北条が姿を見せた。顔が以前よりも幼くみえる。たぶん、整形手術を受けたのだ。

 東堂はリハビリ後に、リハビリ室の隅に座って、北条と話した。北条がぽつりと言った。

「俺、女の子の名前が決まったんだ。伊藤彩夏。受け入れ先も決まった。来年の4月から小学校6年生。赤いランドセルを背負って小学校に通うんだ」

 そういう北条=伊藤彩夏は目から涙を溢れさせていた。それは東堂自身にも起こる未来だった。東堂も目からぽろぽろと涙を流した。こんな経験は初めてだった。他人の悲しみに共感することなどなかった。東堂は自分の周りに壁を張り巡らせて、他人の感情が入ってこないように、自分の感情が出ていかないようにしていた。その強固な壁のせいで東堂は泣くことも悲しむこともなかった。2人の女を強姦して殺しても、女たちの恐怖や悲しみを理解することなどなかった。東堂は壁のおかげで、どれだけでも冷徹になれた。

 だが、その壁にぽっかりと穴があいて、彩夏の悲しい気持ちが吹き込んでくる。自分からも悲しい気持ちがあふれでて、涙が自然にぽろぽろと溢れ出る。こんな気持ちは初めてだった。これは大量に投与されている女性ホルモンの影響なのだろうか。東堂は彩夏をきつく抱きしめた。女になるとはこうした気持ちになるということなのだろう。

「頑張ろう。お互いに」

うん、と彩夏は小さくうなずいた。その仕草は幼い女の子らしく、とても可愛らしかった。その後しばらくお話をしたが、それが彩夏をみた最後となった。

 東堂はリハビリをがんばって、冬に入る頃には自力できちんと歩けるようになった。

ある日、東堂は応接室に呼ばれた。ドアをノックして、部屋に入ると、小さな机の向こうに担当医と見ず知らずの三つ揃いのスーツを着た30代くらいの男が座っていた。

 担当医が口を開いた。

「東堂くん、君の引受先が決まった。君を引き受けてくれる二条院春馬さんだ」

「よろしくね。私が君を引き取る二条院春馬だ」

男はそう言って、手を差し出してきた。ごつごつした大きな手だ。小さく改造された手で東堂は差し出された手を握った。

「よろしくお願いします」

東堂は小さな声で言った。

「君の名前を決めてきた。二条院梨沙。可愛らしい名前だろう。年齢は今11歳。来年4月から小学校6年の女子だ。戸籍の手続きも進めている。東堂健の戸籍は死亡抹消になった。新しい単独戸籍をつくって、そこから養女として私の戸籍に入るかたちになる」

 実際に女児として、それも小学生として生活するのだと思うと、自然と目から涙が溢れてきた。

「私が貰い手でそんなにうれしいかい?梨沙。君は高校をでたら、私が決めた相手と結婚してもらう。私の孫を産んでもらう。ちゃんとした相手を選んであげるからな。そうだ。小学校は公立の学校にしようと思っている。私の知り合いに頼んでその家から小学校に通わせてあげよう。私の家でお姫様ぐらしをするよりずっと楽しいだろう」

 東堂は涙が止まらなかった。二条院春馬が言ったことがよく理解できなかった。結婚?孫を生む?女として暮らしていく未来に待つ出来事を、男だった東堂は自分の身に起こる出来事として把握することがでなかった。

「ドクター。梨沙をもう少し小学生らしい幼い顔に整形してくれないかな?その方が女の子の生活に馴染みやすいだろう」

「わかりました。これが最後の手術ですね」

「ほんとうに可愛らしい女の子になったな」

そう言って、二条院春馬は東堂をじっくりと眺めた。

東堂健=二条院梨沙は顔の整形手術を受けた。包帯が取れると、思った以上に幼い顔に整形されていた。彩夏みたいに小学6年生の女子にふさわしいぷくぷくした顔に整形されたのだ。

 女子トイレに行ったときに、爪先立ちで鏡をのぞいてみた。背が低くなり、爪先立ちにならないと顔が全部映らないのだ。それは幼くて可愛い女の子の顔だった。二条院春馬の家ではなく、その知り合いの家から小学校に通うということだった。どんな家庭なのだろう。

12月の半ば、担当医に応接室に呼ばれた。小さな机の向こうに3人がいた。女の子、その両親らしい男女。

「君の新しい家族だ。君は今日退院だ。こちらは伊藤さん一家だ。君を引き取りに見えられた」

「に、二条院梨沙です。よろしくお願いします」

 言い慣れない新しい自分の名前を名乗って挨拶をした」

「梨沙ちゃん、よろしくね。私は伊藤久男。こちらは妻の明子。娘の華だ」

「梨沙ちゃん、よろしくね。梨沙ちゃんのお姉ちゃんになる華だよ。今、小学校6年生。来年の4月からは中学校1年生」

 華は手を差し出してきた。梨沙はその小さな手を握って、よろしく、と言った。華は可愛らしい女の子だった。白のブラウスにオレンジ色のプリーツスカート、可愛らしいソックスをはいている。

「梨沙ちゃんの着替えを持ってきたから、病室で着替えましょう」

 妻の明子が言った。立ち上がるとソファのそばにあるキャリバックを引いて梨沙のそばにきた。

「私も手伝ってあげる」

 華が立ち上がった。

「私はここで待っているよ」

久男が言った。

「さあ、いきましょう。病室を教えてください」

「こちらです」

担当医に連れられて、病室に向かう。華の身長は梨沙とほとんど変わらなかった。病室では担当医は外に追い出され、明子がドアを閉め、カーテンを閉めた。明子はベッドの上にキャリーバックを乗せて開けた。中にはいろいろな可愛らしい女児向けの洋服が入っている。可愛らしいピンクの靴もビニール袋に包まれて入っている。梨沙のために用意してくれたのだろう。

「さあ、脱いで」

華が言った。梨沙は病院着を脱いだ。梨沙の着ている肌着はランニングシャツとくまさん柄のかわいらしいショーツだ。梨沙はランニングシャツを脱いだ。お椀型に美しく乳房が盛り上がり、乳首がつんと上を向いている。

「梨沙ちゃんは、お胸が大きいのね。うらやましいな」

と華。

「カップのついたキャミソールしか持ってこなかったわ。小学生でもこれだけあればブラを買わないといけないわね。今日はがまんしてね。あとで、買いにいきましょう」

明子はキャリーバックからブリルのついた可愛らしい薄いブルーのカップ付きキャミソールを取り出した。梨沙はそれを受け取ると頭から被って着た。キャミソールのプラカップは梨沙のぷっくら大きな乳首を優しく包んだ。これなら擦れて困ることはないだろう。ショーツは可愛らしいピンクの横シマの柄だった。梨沙はそれを受け取り恥ずかしそうに履き替えた。明子が梨沙のはいていたショーツに目を留めた。

「梨沙ちゃんはもうおりものシートをつかっているのね。生理があるのね。華も生理が始まったのは今年の春。おりものが多いわね。生理はそろそろ?」

 明子が梨沙のおりものシートに目を留めていった。

「あ、あと少しで生理がきます」

 梨沙は恥ずかしそうに言った。

「私も生理はまだ慣れないわ。女の子の先輩としていろいろ教えてあげるわね」

華がそう言って、微笑んだ。明子は自分のバックからおりものシートを取り出すと、梨沙のためにもってきたショーツにおりものシートを貼った。

「今日は私のでがまんしてね」

「あ、ありがとうございます」

梨沙は明子に礼を言った。

「気にしないで。女同士だもの」

明子は微笑んだ。そして、キャリーバックからひまわり柄の黄色の長袖のワンピースを取り出した。華がそれを梨沙に着せた。付属の細い同じ黄色のベルトを梨沙のくびれたウエストに巻く。

「似合っているわ。可愛い」

華が微笑んだ。

「とってもにあっているわね」

明子も微笑んだ。明子は梨沙に可愛らしいピンクのソックスを履かせた。明子がブラシを出して梨沙の長い髪を梳き、可愛らしいシュシュで結んでポニーテールにした。これで完了だ。キャリーバックを閉じると、3人は病室をでて、応接室にむかった。着替えた梨沙をみた久男は

「すごく可愛いね。よく似合っている」

と微笑んだ。研究所の出口で明子は梨沙に可愛らしい女児用のピンクのスニーカーを履かせた。サイズを確認すると23センチだった。梨沙は明子と華に手を引かれて研究所の建物をでた。梨沙には久しぶりの外気だった。空はどんより曇っている。ワンピース1枚では寒かった。

「さあ、帰ろう。梨沙ちゃん。全部用意してあるから」

研究所の駐車場に止めてある久男の日産ノートに乗り込んだ。梨沙はこれで研究所からは解放されるのだ。しかしそのあとは女児としての生活が待っている。梨沙は女児の生活に馴染めるか不安だった。梨沙は明子と華に挟まれている。華が梨沙の腕につかまっている。華からは若い女児の匂いがする。明子からはいい香水の匂いがする。梨沙は、今は華と同じ女児であり、やがて明子のような母親になるしか道はないのだ、と思った。

 久男の日産ノートは、研究所のゲートをくぐった。梨沙は釈放されたのだ。でも、それは自由が待っているのとはわけが違った。

第1話 百合色の人生ー解体ー

第3話 百合色の人生ー女児として暮らす初めての日ー

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