百合色の人生ー解体ー

 ある初夏の頃だった。涼風君代は女子大から帰り道、その小道を通った。その小道は家への近道だった。防犯灯はなく、暗い道だったが今まで危ない目に遭ったことなど一度もなかった。その小道から家までは5分。走れば2分で着いてしまう。危険だなどとは思いもしなかった。その日は、ゼミで帰りが遅くなってしまい、時刻は9時をまわっていた。その小道は真っ暗だった。でも君代はちっとも怖くなかった。家で暖かいご飯が食べられる。君代はその小道を家へと急いだ。

 突然、何者かが君代の行く手を塞いだ。君代に近づくと何かで君代の口を塞いだ。声をあげられない君代を抱えて君代が歩いてきた方に走っていく。君代は気がついた。男に襲われた。口を塞いでいるのは粘着テープだ。どうしよう。殺されるかも。君代の心は恐怖に震えた。男は君代を小道の入り口にとめてあるバンの後ろに乗せた。両手を後ろ手にガムテープでぐるぐる巻きにする。両足もストッキングの上からぐるぐる巻きにする。君代は動くことができなくなった。目の上からもガムテープをぐるぐる巻きにした。なにも見えない。小道の入り口にそういえばバンがとまっていた気がする。急いでいて気にも留めなかった。もっと用心すべきだった。男はガムテープでぐるぐるまきの君代を後ろにのせて、バンを発進させた。君代はバンがガタガタいうのを体で感じていた。30分か40分経ったかもしれない。1時間かもしれない。君代は殺されるという恐怖にガタガタ震えていた。

 バンがとまった。後ろのハッチがひらく音がする。男の手が君代に触った。男は君代を抱えて、どこかへずんずん進んでいく。ガムテープで目が塞がれていてまわりがみえない君代はどこへ連れていかれるのかすごく不安だった。君代はどこかに置かれた。ほんやりする。なにか鉄臭い匂いがする。男は君代の目を塞いでいたガムテープを剥がした。つけまつげやアイライナーも剥がれてしまう。どこかの廃工場のようだった。男は20代の若者に見えた。男は君代のストッキングをびりびりに引き裂き始めた。口はガムテープで塞がれていて声をあげることができない。ストッキングを破ると、フレアスカートをたくし上げ、ショーツに手をかける。

 「今晩はたっぷり楽しませてもらうぜ。可愛いパンティーをはいているな」

男がにたにたと笑った。

 その時、周囲が一斉に明るくなった。

 「東堂健。強姦の現行犯で逮捕する」

 警官が一斉になだれ込んでくる。男は逸物を勃起させたまま、廃工場の奥に逃げまわった。勃起はいっこうに治らなかった。男はあっという間にとらえられた。

東堂健にとってこれが3度目の犯行だった。2度の犯行はうまくいった。前回の犯行から時間をかけて次の犯行を行う。被害女性の行動調査も綿密に行う。どんな行動パターンを持っているのかを綿密に調べる。絶対に捕まらない自信があった。ただし、犯行場所は変えようと思わなかった。ここほど都合がいい場所は他になかった。犯行場所が特定され、見張られていることに東堂は気が付かなかった。3度目にして強姦殺人犯、東堂は逮捕されたのだ。

 逮捕後、東堂は黙秘したが、家宅捜索が行われ、前の二件の被害女性の”記念品”が見つかったことから、二度の強姦殺人が露見した。東堂のDNA鑑定が行われ、殺された二人の女性の膣内から検出されたDNAと一致した。二件とも強姦したら殺す目的で誘拐したことが判明し、計画的な殺人であることがわかった。東堂は送検され、裁判員裁判が開かれた。状況証拠、本人の自白などから、裁判員のほどんどが死刑が妥当と判断したが、一人の女性が声を上げた。

「死刑なんて生温いわ。死んでそれで終わりなんて殺された女性が浮かばれないわ。無事だった君代さんだってひどい心の傷を受けている。あの男を同じ目に合わせてやるといいわ。一昨年にできた女性化の刑を求刑しましょう。それも幼い女の子に改造してもらうの。女の子が襲われる時、どういう気持ちになるか味わうといいわ。どう?いいアイデアだと思わない?」

 女性化の刑とは一昨年にできた刑罰である。その目的は獰猛な強姦犯を無害な女性に改造して社会復帰させることである。女性化は多額な費用がかかるため税金から費用を支出することはできないと猛反発があったが、ある企業が性別不適合者のための性転換手術のモルモットとしてその費用を自己負担してもよいと申出があった。強姦犯を実験台にして性転換手術の技術向上と施術者の増加を図り、性別適合手術を普及させたいと、国民の税金は一銭たりとも使わずに女性化の刑罰を行うとの申出だった。これまで強姦犯に娘を殺されたり、ひどい目に遭わされたりした親やその親族は、この法案に賛成した。世論が大きくなり、この法案は可決された。実験台とすることが人道上の非難を浴びることはなかった。人口の半分は女性なのだ。女性として国民の権利を享受できるのだ。女としていきることは人道上の問題にはならない。

 東堂健の裁判員の話し合いで、女性化の刑の話がでると、死刑を主張していた人々が意見をひるがえし始めた。別の女性が発言した。

「女にするなら幼女にしてもらいましょう。東堂を実験台にするんだものそれぐらいできると思うわ。してもらわないと困るわ。幼い女の子は、女の子であるがゆえに、痴漢やロリ変質者や強姦魔の恐怖に怯えて毎日を過ごさなければならないのよ。その恐怖を身を以て知るがいいわ。小学生の女の子に改造してもらいましょう。それがいいわ」

男性が口を挟んだ。

「いくらなんでも小学生は無理だろう。あの研究所でできるところまで幼女化するということではどうだろう」

「まあ、大人を小学生か中学生にするんだもの難しいわよね。でもできるところまではやってもらわないと刑罰にならないわ」

 裁判員の話し合いは女性化の刑の執行ということできまった。できるかぎりの幼女化という条件付きで。

 東堂健は被告席で求刑を待っていた。死刑は覚悟していた。計画的に二人の女性を強姦して殺し、三件目の強姦未遂を犯したのだ。精神鑑定の余地もなかった。三件目はうまくいっていれば殺していたのだが。

 裁判長が東堂健に求刑した。

「東堂健。被告を女性化の刑に処す。ただし、できるかぎりの幼女化という条件で」

 東堂健は驚いた。死刑ではない、女性化の刑が執行されるのだ。しばらく開いた口が塞がらなかった。東堂健は死刑は覚悟していたから、死刑判決なら受け入れられただろう。しかし女性化の刑、しかもできるかぎりの幼女化というのは東堂を絶望の淵へ突き落とした。東堂にとってこれほどの侮辱はなかった。これならどれほど死刑の方がましだったろうか。これから幼女として生きていかなければならないのだ。ランドセルを背負ってか、セーラー服を着てかして学校に通い、女の子として扱われるのだ。

 東堂健は抗告しようとしたが、弁護士にとめられた。東堂は犯行当時精神の異常は認められず、情状酌量の余地は全くなかった。ここで抗告しても棄却されるだけだ、死刑にならなかっただけましだ、諦めて刑を受け入れた方がいいと弁護士に諭された。

 刑が執行されるまで、東堂は刑務所に拘留された。刑の執行が決まれば研究所に移送される。

 東堂は刑務所の独房の中で看守の姿を目にするたびに刑が執行されるのではないかと恐れおののいた。こんなにびくびくして過ごさなければならないのはいつ以来だろう。いつも強気に振る舞い他人を怯えさせていたのに、今は小さなウサギのように怯えている。そうした自分が許せなかった。本来の自分はもっと恐ろしい存在であるべきだ。それなのに看守の靴音に怯えている。東堂は独房の中で相矛盾する考えに苦悩していた。

 ある夜、東堂は夢を見た。女たちを襲っている夢だ。一人の女を捕まえ、着ている青のストライプのワンピースをずたずたに引き裂き、ショーツを剥いで、濡れてもいない膣穴に自分の巨大な逸物を無理やり押し込む。女は悲鳴をあげ、膣穴がさけて血が流れている。東堂は自分の逸物を力任せに押し込んだ。すると、なぜか急にするりと膣穴が東堂の逸物を飲み込んだ。東堂は膣穴に吸い込まれていった。気がつくと東堂は赤いランドセルを背負った小さな女の子になっていた。目の前にはロリコンの変質者が逸物をさらしてたっている。小さな女の子の東堂をいやらしい目で睨みつける。東堂はこの変質者からにげようと走り出したが、すぐに捕まってしまう。可愛らしい赤のスカートはすぐに引きちぎられ、くまさん柄のぱんつも剥ぎ取られ、小さな膣穴に男が汚らしい逸物を無理やり押し込む。膣穴は小さすぎで逸物は入らない。無理やり入れようとするので裂けて血が流れる。東堂は思わず、痛いよー、痛いよー、と悲鳴をあげた。そこで東堂は目が覚めた。額がぐっしょり汗に濡れ、手にびっしょり汗をかいている。東堂の逸物はぎんぎんに朝立ちしていた。東堂は不安を紛らわせるために、独房のトイレでぎんぎんに勃起したペニスをしごきオナニーをした。それでもまだ逸物は静まらなかった。

 東堂は不安を紛らわせるために頻繁にオナニーをするようになった。最初はトイレにいっていたが、そのうち、気がつくとペニスをいじっているようになり、部屋中ところかまわずオナニーをするようになった。一日に10回ではきかなかった。部屋が精液のイカ臭い、青臭い匂いで充満するようになる。看守はみてみぬふりをした。もうすぐそんなことはできなくなるのだ。

 その日は突然やってきた。看守が東堂の独房の鍵をあけた。東堂は自分のペニスをいじっている最中だった。

「おい、そんなことはやめてでろ」

 東堂は、最初、看守が何をいっているのかわからなかった。看守は東堂が振り向きもしないので独房のなかに入り、東堂の肩を叩いた。東堂はびくっとしてオナニーをやめ、看守のほうに振り返った。東堂は刑が執行されるのだと気がついた。

 東堂は看守について、大人しく独房を出た。看守はひとりだけではない。独房に入ってきた看守の他に3人いる。東堂は研究所へ移送されるのだ。看守に見張られて、廊下を歩いていった。看守がとまったので、東堂も止まった。そこには部屋のドアがあった。看守がドアノブを握ってまわし、ドアを開けた。東堂の位置からは部屋の様子はわからなかった。

「さあ、入れ」

 東堂は促されて部屋に入った。その部屋は天井からの明るいLEDライトによって照らされていた。大きさは4畳ぐらいで真ん中にぽつんと事務机と椅子が置かれており、事務机の向こう側には白衣を着た医師らしい人物が座っていた。事務机の上には注射器が置かれていた。看守も部屋に入ってきて、東堂に椅子に座るように命じた。

「今からちょっとした注射をする」

 事務机の向こう側に座っている医師は、そういうと立ち上がり、東堂のところにやってきた。看守たちが東堂を押さえつけた。東堂はこの後に及んで暴れるつもりはなかった。医師は東堂の左腕の前腕にゴムチューブを巻くと、ゴムチューブからちょっと前の静脈に注射をした。ちくりとした。医師はゴムチューブを外すと、元の位置に戻って椅子に座って、東堂をじっと見つめた。看守たちも東堂から離れた。東堂はなにかいい気分だった。ふわふわとした感じだった。いつのまにかまぶたが重くなる。目を開けていようとするのだが、それはできなかった。まぶたがどんどん重くなる。東堂は自分の意識が眠気に飲み込まれるのを感じた。そこで東堂の意識は途絶えた。

 東堂は目を覚ますと、手術台の上にいた。真っ裸だった。ブルーの手術着をきてブルーの手袋をした数人の医師たちがいる。東堂は意識ははっきりしていたが、下半身の感覚は全くなかった。ブルーの手術着をきた一人の医師が近づいてきた。

「東堂くん、お目覚めかい?刑の執行だよ。下半身麻酔をした。動かない方がいいよ。今から手術だからね。自分のペニスがきりとられるところをしっかり見ておけるように下半身だけ麻酔をした。しっかりみとどけるといいよ」

 その医師が合図をすると、医師たちが集まってきた。東堂が見えるところにカメラがあり、手術室の上の方がガラス張りになっていて何人かがみている。

 最初に東堂に話しかけた医師は、東堂のぐんにゃりしたペニスをブルーの手袋で掴むと、その裏側から、東堂の見えない側からメスを入れた。東堂は何も感じなかった。しかし胸の奥から何かが込み上げてきて、涙を流した。溢れ出る涙はとどまることを知らなかった。こんなに急に刑が執行されるとは思ってもいなかった。自分の自慢の逸物に別れをつげる時間もなかった。

第2話 百合色の人生ー女児としての釈放ー

第3話 百合色の人生ー女児として暮らす初めての日ー