中学卒業で永久就職しました。ー同居ー

 山内さゆりは公立秦野中学校の3年生だ。夏休みがあけ誰もが進路を真剣に考え受験勉強を本格化させている頃、さゆりは担任に進路希望票を提出した。第一希望、お嫁さん。第2希望、なし。第3希望、なし。さゆりは勉強が出来ないわけではない。むしろ逆だ。学年での成績はいつも上位3位以内に入っている。県内一の進学校、県立花岡高校にもかなりの確率で合格するだろう。そんなさゆりが進路希望票に「お嫁さん」と書いてきたのだ。驚いた担任はさゆりを小会議室に呼び出した。

「さゆり、これはどういうことだ?お前は花岡高校に行くんだろう?」

「書いたとおりです。高校にはいきません。お嫁さんになるんです」

さゆりは真面目な顔で答えた。担任は渋い顔をした。

「家の事情か?そんなものは奨学金でなんとでもなる。高校に行かないなんてありえないぞ。それにお前は勉強ができる。せっかくの才能を潰していいのか」

「もう決まってしまったんです。今更変えられないんです」

さゆりは立ち上がると小会議室を飛び出した。高校に行けないことは悲しいことではなかった。結婚することで今まで抱えていた全ての問題がきれいさっぱりなくなるのだ。それにあこがれの純白のウエディングドレスも着られるのだ。こんなにいいことばかりなのだ。なぜわざわざ苦労を背負いこんでまで高校に行かなければならないのだろう。それにもう決まってしまったのだ。今さら、結婚はなしにして高校に行かせてくださいと言えるはずなどない。もうお金をもらってしまったのだ。父の借金はすでになくなったのだ。これで結婚しませんなどといえるわけがない。お金を返せなどと言われたら、そんな大金を払えるあてなどない。

 さゆりがその男とであったのは暑い8月半ばの頃だった。「金返せ!」蝉のようにうるさく叫ぶ借金取りが来ていた。さゆりは彼に頭をさげて、家の中に入った。父が部屋の隅で小さくなっていた。でも、その手にはワンカップ大関が握り締められている。

 その男がやってきたのはその夜のことだった。さゆりが住んでいる家は3部屋ある平屋の借家で、同じような作りの家が碁盤の目のように並ぶ借家群のひとつだ。夜にドアがこんこんとノックされた。借金取りがこんな時間に来ることはない。誰だろう。そう思ってさおりは「どなたさまですか」と小さな声で言ってドアを開けた。そこには目つきの悪い、大きながたいの男が男が立っていた。本物のやくざみたいだった。さゆりは恐怖に身をすくめた。その男は「おじゃまします」と言って右手にジュラルミンのかばんをもって、靴を脱いであがってきた。

「か、金ならないぞ」

父が叫んだ。

「借金取りではありませんよ」

「じゃ、じゃや何の用だ」

父は男のただならぬ気配に圧倒されていた。

「今日は、さゆりさんを妻にもらいたいと思いまして参上しました」

「さ、さゆりを妻に?さゆり、この男をしっているのか?」

「ううん、全く知らない人」

さゆりには全く心当たりがなかった。

「さゆりさんを妻にいただければ、お父さんの借金もすべてお支払いしてさしあげますよ」

 やくざみたいな大男はできるかぎりの微笑みを浮かべてみせた。それはどうみても引きつった笑いだった。

「さゆりは金で売らんぞ。借金があるからといって、娘を金でうる親がどこにいる!出て行け」

転がっているワンカップ大関の瓶を男めがけて投げつけた。ワンカップ大関の瓶は男の額に直撃した。額から血がながれた。しかし男は表情ひとつ変えず、ポケットから真っ白なハンケチをとりだして、額の血をぬぐった。本当は避けられたのにわざとあたったみたいだった。男はジュラルミンのケースをおもむろに開いた。中からさゆりが見たこともない一万円札の束を取り出した。ひとかたまりが帯封されている。その帯封がされたひとかたまりをまるで積み木を積むようにちゃぶ台の上に積んでいく。いったいいくらあるのだろう。こんな金額の一万円札をみたこともないさゆりは、当然だがその金額を推測することすらできなかった。父の目の色が変わっている。

「借金などちゃんと払ってあげることができるんですよ。娘さんを幸せにしてあげることができるんですよ」

男はまた張り付いたような笑みを浮かべた。

「じゃあ、借金を全部払ってくれたら考えてもいい」

「8月終わりまでにはきれいに片付けますよ。そうしたら娘さんをいただきます。約束ですよ」

そういうと、男はちゃぶ台の上の一万円札の積み木をジュラルミンのケースにしまった。

「申し遅れました。私はこういうものです」

 男はスーツのポケットから名刺を取り出して、ちゃぶ台の上に父の方にむけておいた。山科企画 代表取締役 山科啓吾。

「私はIT関連の仕事をしています。山科企画という会社を経営しています」

そういってまた張り付いたような笑みを父に向けた。そしてさゆりの方をじっとみた。

「では、8月末にはまたおじゃまします」

そう言って男は玄関からでていった。父はちゃぶ台の前でなにが起こったんだろうという顔をしている。

「これで借金がなくなるわね。借金取りになやまされることがなくなるわね」

さゆりはできる限りの笑みをつくった。

「す、すまん。あんな金を見せられたんでつい。だが、見ず知らずの中学生のためにおれの借金を払うなんてありえない。お前は俺が守る。妻との約束だからな」

さゆりはわざとにこにこした。涙があふれてきそうだった。あの男は父の借金を返すだろう。8月末にはやってくるだろう。さゆりは父に売られたのだ。来年から、(来年さゆりは16歳になるから)あの男の妻になるのだ。極道の妻という単語が頭に浮かんだ。さゆりは、大丈夫だから、心配しないで、といって急いで自分の部屋に駆け込んだ。布団の上に女の子座りすると、目から涙が溢れてとまらなくなった。お金で売られて、あのヤクザの妻になるのだ。刺青をいれられてしまうかもしれない。もうまともな人生は送れないのだ。

 男は8月の末に約束通りやってきた。父のすべての借金を完済した証明書をもってきて、ちゃぶ台の上、父の目の前においた。さゆりも覗き込んだが、父の借金は完全になくなっていた。これでさゆりは結婚しないといけなくなった。まるでペットを売り買いするみたいにさゆりは売られたのだ。

「結婚するには私にも条件があります」

「なんだい?いってごらん」

「結婚式では純白のウエディングドレスが着たいです。チャペルで結婚式をあげたいです」

「わかった。最高の純白のウエディングドレスをきせてやる。ダイヤがきらきらするやつがいいか?」

「ダイヤはどうでも」

 こうしてさゆりの結婚が決まってしまった。借金がなくなった父は、この山科啓吾のいうとおり、娘のさゆりを結婚させざるおえなくなった。

「あとで、俺たちの新居をみにいこう」

「は、はい」

と小さな声でさゆりは答えた。さゆりの大好きな少女漫画なら(父に売られてしまったが)こういう場面でかっこいい幼馴染が助けてくれるのだ。でも、貧乏なさゆりのことが大好きでなにがなんでも守ってやる、というような幼馴染などいなかった。そういうのは所詮、漫画の世界の出来事なのだ。

 2学期が始まる直前の日曜日に、山科啓吾はやってきた。啓吾についていくと、道路の路肩にベンツがとまっていた。友達の美沙ちゃんとみた映画で、ヤクザが乗っていたのがベンツだった。美沙がぽつりといった。「やくざって、ああいう大きなベンツにのっているんだよ。あれがベンツ、やくざが乗る車だよ」美沙ちゃんの言葉が蘇ってきて頭の中をくるくるまわる。やくざなんだ。やくざの奥さんになるんだ。涙が溢れてしまいそうだった。啓吾はさゆりの手を取った。啓吾の手はごつごつして大きかった。そして暖かかった。啓吾はさゆりを助手席にのせ、自分は運転席にすわると車をだした。

「啓吾さんってやくざなの?」

さゆりはおそるおそる聞いてみた。そうだよ、といわれたところで何もかわらない。逃げ出すことなどできないのだが。それでもちゃんときいて、心の準備をしたかった。

「俺はやくざじゃない。安心しろ」

前をみながらポツリと言った。それきり、啓吾はなにも話さなかった。ベンツは大きなマンションの地下に入っていった。地下は広い駐車場になっていた。ベンツを所定の駐車場にとめると、啓吾とさゆりはエレベーターで最上階にあがった。最上階は長い廊下にいくつかのドアがついている。

「ここが来年からお前が住む家だ。この全フロアが俺の家だからな」

 啓吾は一番手前のドアの鍵穴に鍵を差し込んだ。ドアを開けると、広い玄関口がある。玄関でスニーカーを脱ぎ中にはいる。

「一人で住むには広すぎるんだ。お前の部屋も用意する。天蓋付きのお姫様ベッドがほしいか?お前が住むまでには用意しておくからな」

 啓吾は貼り付けたような笑みをうかべている。啓吾はうれしいのだ。「ありがとう」さゆりが答えた。さゆりは啓吾に連れられて家の中を見てまわった。家は思ったよりもはるかに広かった。家の調度品はどれもさゆりが見たことがない豪華な品だった。まさに王様の家だった。さゆりはいろいろなお友達の家にあそびにいったが、こんな王様が住むような家は見たことがなかった。啓吾はリビングルームでオレンジジュースを出してくれた。冷えたオレンジジュースはとてもおいしかった。

「ら、来年からは一緒に住むんですね?」

「中学をちゃんと卒業したら、一緒に暮らす。16歳の誕生日をまって結婚だ。今はせいいっぱい学校生活、楽しんでおけよ」

「もうお友達と会ってはいけないの?」

「俺はおまえをここに縛っておくつもりはない。友達に会いに行くのも自由だ」

 啓吾はさゆりを立たせると、その柔らかい唇にキスをした。さゆりには生涯で初めてのキスだった。最初のキスは夫とのキスだった。

 山科啓吾が山内さゆりを見つけたのは、ベンツで街を流している時だった。平屋の借家がずらりと秩序正しく並んでいる。その1軒で、ちんぴらみたいな男が、金かえせ!と叫んでいる。今時いるんだな、あんなちんぴらが。どうみても違法行為だ。借金を取り立てるなら法律をつかわないと。まるで昔見た昭和の映画だ。面白がって成り行きをみていると中から可愛らしい女の子ができてきた。涙をこぼしながら謝っている。ぷっくらした顔に長い黒髪、体つきは子供っぽい。中学生だろうか。それでもすごく可愛らしい。天使が悪者にいじめられている、啓吾はその時、そう思った。啓吾は素人童貞だ。女が近寄ってこない。顔をみただけで、嫌な顔をしてにげていく。やくざだと思われているのだろう。優しくしてくれたのはキャバクラやソープで遊ぶ女だけだった。その中学生らしき女の子を見た日からその女の子のことが気になって仕方がなかった。なんどかあの長屋に行って女の子が出てくるのを待った。女の子はときどき顔を見せた。啓吾は気づかれないよう写真をとった。興信所に依頼して、女の子の身元を探らせ、写真を撮らせた。女の子の名前は山内ゆかり。中学3年生。興信所の探偵がとった盗撮写真はまるでアイドルの写真みたいだった。デスクの写真たての中に入れて、仕事に疲れるとその写真をぼんやりと眺めていた。山内ゆかりの父、晴信は、パチンコや競馬をして働かない、どうしようもないだめ男だった。借金の額は200万円、啓吾にとってみれば、10円ぐらいのはした金だった。そのはした金のためにあの天使が泣いて謝っているのだ。啓吾はゆかりを妻にしようと思った。金ならいくらでもあるのだ。

 2学期に入り、クラス全体が受験モードに突入する中、さゆりは啓吾とのデートを繰り返した。啓吾はさゆりがいままで食べたことがないようなフレンチやイタリアンに連れて行ってくれた。さゆりはまだアルコールを飲めない。まわりからみれば親子に見えるかもしれない。啓吾は顔は怖いが、案外優しかった。さゆりに暴力を振るうことはなかった。一緒に暮らしても大丈夫かな?とデートを重ねるたびにさゆりは考えるようになった。

 さゆりは勉強も手を抜かなかった。もう学校生活を送ることはできないのだ。みんなは高校に行って、さらには大学に行って、学校生活を送れるが、さゆりにはもうそういう道はないのだ。それがちょっと寂しかった。だからできるだけのことはしようと思った。借金取りのうるさい声に悩まされることも、それでイラつく父に悩まされることもなくなった。父はさゆりが嫁に行くことになってから、パチンコにもいかず、家でぼんやりしていることが多くなった。さゆりは、これが最後と勉強を頑張った。もう、国語や英語の教科書を開くことはなくなるのだ。友達の美沙ちゃんは、県立花岡高校に行くだろう。そうして国語や英語の新しい教科書を広げることができるのだ。部活にも入るだろう。美沙ちゃんは頭がいいから、大学にだっていくだろう。そう考えるとちょっと羨ましかった。さゆりにはそういう選択肢はないのだ。英語や数学の教科書がいとおしかった。啓吾とのデートを楽しんだ後でも、勉強はかかせなかった。そのせいか、2学期の期末テストでは学年1位になった。

「本当にさゆりちゃんは高校にいかないの?」

美沙ちゃんが不安げに聞いてくる。

「うん。いかないよ。私はお嫁さんになるの。お嫁さんになってもたまには一緒に遊んでね」

さゆりは美沙に抱きつくと、思わず涙があふれた。溢れた涙はもう止まらなかった。美沙はなんといっていいかわからず、強くさゆりを抱きしめた。

「結婚しても、美沙はさゆりの友達だからね。絶対遊びにいくからね」

なんとかそれだけは言うことができた。

3学期も学年末テストは美沙がトップだった。でも、それは輝かしい門出を祝うものではなく、すべての終わりを告げるものだった。これでテストは最後なのだ。学校生活はもう最後なのだ。

卒業式の日に、さゆりは美沙に新しい住所を教えた。二人はその年の夏に一緒に遊ぶことを約束した。

中学を卒業すると、さゆりの生活用品は全て啓吾のマンションに運ばれた。新しい住まいでのさゆりのベッドは美沙ちゃんとみた映画に出てくる、お姫様が眠る天蓋付きのベッドだった。

 さゆりが新居につくと、啓吾が出迎えた。

「今日から楽しく暮らそうな。来年はお前が楽しみにしている純白のウエディングドレスで結婚式をあげよう。キラキラひかるダイヤのついたティアラも買った方がいいな」

 啓吾はひきつった笑いを浮かべているが、嬉しいのだ。でも、そんな啓吾をみると、周りの人は逃げ出すだろう。さゆりはデートを重ねてわかった。この人はすごくシャイなのだ。その喜びに気が付いてあげられるのは自分だけなのだ、さゆりはそう思った。部屋にはもう一人、女の人がいた。誰だろう?

「さゆり、紹介する。こちらは家政婦の黄浜美奈子さんだ。おまえに料理や掃除、洗濯を教えてくれる。それから買い物とかジムとかにも一緒にいってもらうようにする。お前一人で行動させると心配だからな」

「さゆりです。よろしくお願いします」

さゆりは頭をさげた。

「美奈子です。奥様よろしくお願いします」

美奈子が頭をさげた。奥様?私のことだ、家政婦なんて本当にいるんだ、映画でしかみたことがなかった、本物だ、さゆりは思った。さゆりはなにか不思議な気持ちだった。まるで違う世界にきてしまったみたいだ。ラノベで読んだ異世界転生の話みたいだ。別の世界に生まれ変わって、お姫様になる。そんなことが現実に起こったみたいだった。

「美奈子さん。今日は3人分、料理をつくってくれ。これからはさゆりにつくらせろ。さゆりに覚えてもらわないとな」

 啓吾が怒ったみたいな顔でさゆりをみた。啓吾さんは私をみて微笑んだのだ、さゆりはそれがわかった。

「さゆりには明日からスポーツジムに通ってもらう。来年、ウエディングドレスが入らなかったら大変だからな」

本気か冗談かわからない調子で啓吾が言った。

「わかりました。ちゃんとジムに通います。美奈子さんにもお料理やお掃除を教えてもらいます」

 その夜は、ダイニングのテーブルに美奈子さんの手料理がずらりと並んだ。どれもすごく美味しそうだ。啓吾がいただきます、というと美奈子とさゆりもいただきます、といって料理に箸を伸ばした。すごく美味しかった。啓吾さんといったフレンチやイタリアンにも負けていない、とさゆりは思った。でも、目の前の美味しい料理を食べていると、ふと怖くなった。明日からこれを自分が作らなければいけないのだ。つくれるわけがない。こんな美味しいお料理を。啓吾さんは美味しい高級なフレンチやイタリアン、お寿司などを食べ慣れている。下手くそな自分のお料理が明日からこのテーブルに並ぶのだと思うと恐ろしくなった。こんなに美味しいお料理なんてできるわけがない、啓吾さんは食べてくれるだろうか、まずいな、といって箸をつけてくれないかもしれない。そうしたらどんなことになるのだろうか、そう思うと本当に恐ろしくなった。思わず目から涙があふれた。

「そんなに美味しくなかったのかしら?」

美奈子さんが困った顔をしている。

「そ、そうじゃないの」

さゆりが小さな声で言った。啓吾が近づいてきた。

「どうしたんだ?急に。不味かったのか?嫌いなものでもあったのか?俺は美味しいと思うが」

「お、美味しいの。こんな料理、絶対私にはつくれない。明日から私がこんな料理をつくるなんて絶対に無理」

「大丈夫だよ。さゆりが作った料理ならどんな料理でも俺は食べるから安心しろ」

 啓吾はそう言ってさゆりを後ろから抱きしめた。

 お風呂の準備をすませると、美奈子は帰っていった。さゆりは啓吾とふたりきりになった。これからはこういう二人きりが当たり前になるのだ。さゆりは啓吾を恐れることは少なくなったが、それでもときどき怖いと思う。啓吾が二人分の紅茶をいれた。テレビを見ながら、さゆりは啓吾と一緒に紅茶をのんだ。

「さあ、ベッドにいくぞ」

 啓吾がさゆりを突然、お姫様抱っこした。啓吾はさゆりを自分の部屋に運び、巨大なベッドの上にさゆりを放り投げた。

「妻になるんだから。セックスも勉強だ。国語や英語、数学を勉強したみたいに、料理、洗濯、掃除、セックスも勉強するんだ。今日はセックスの1時限目だ」

 ベッドに放り投げられたさゆりの上に啓吾がおおいかぶさってきた。さゆりは男の人の裸など見たこともなかった。セックスなんて知らなかった。ニュースで女性がレイプの被害にあった事件はみたことがあった。女の人が泣いていた。その時に男の人は怖い、レイプは怖いと思った。無理矢理に「何か」をされるのだ。その「何か」はさゆりには具体的には想像できなかった。今、目の前の啓吾さんがそれをしようとしているのだ、ということはぼんやりとわかった。

「い、痛くしないでください」

さゆりが小さな声で言った。

「当たり前だ。お前が痛がることはしない。だがちょっとの我慢は必要だ。まずは服を脱げ。裸になれ」

さゆりが服を脱いでいる間、啓吾は机で爪を切っていた。切り終わると丁寧にやすりをかけた。下の引き出しからローションをとりだした。以前に購入しておいた高級品だ。さゆりは服を脱いで全裸になるとベッドに仰向けになった。羞恥心などない。ただ怖くてまた泣き出しそうだった。啓吾がシャツとトランクスだけになって、さゆりに覆いかぶさってきた。さゆりは祈るように手を組んで目を閉じた。

「ショーツのおりものシートがだいぶ汚れているな。生理が近いのか?」

さゆりはただ怖くて、はい、と言った。

「まずはおまんこを見せてもらうぞ」

そういうと啓吾はさゆりのおちょぼぐちのような女性器の小陰唇を左右に開いた。きれいなピンク色だ。右手中指にローションを絡めると、陰裂に指を這わせた。膣穴の入り口を触ってみた。ひっ、とさゆりが声をあげる。膣穴はせまく、指一本いれるのがやっとだろう。これを1年かけて自分のちんぽだけが入るように開発していけるのだ。それは啓吾にとってこの上ない喜びだった。ちいさなクリトリスは皮をかぶっている。啓吾はローションを塗った右手中指で小さなクリトリスを丁寧にいじり回した。さゆりの両手をどけて、膨らみかけたちいさなお椀型の胸の上のさくらんぼを舌でころころと転がした。小さなクリトリスが固くなっている。さゆりは抵抗しない。啓吾のされるがままになっている。啓吾はさゆりのちくびをぺろぺろ舐め回し、小さな胸はたちまち啓吾のよだれでびしょびしょになった。その代わり、濡れた乳首は固く勃起している。こんな感じになったことは今までなかった。さゆりは数回オナニーをしたことがあるが、いったことはない。女性器を机の角でこすると、おまんこが熱くなり、ぴりぴりと痺れるような感じがした。さらに角に沿って擦り上げるとおまんこから何かが出てショーツがぐっしょりとなった。身体中にじんじんと気持ちいい感じがひろがった。先にいくのが怖くてそこでさゆりはやめてしまっていた。啓吾はさらに乳首を攻め、クリトリスをいじり続けた。ああっ、とさゆりが思わず声をあげ、身をよじる。さゆりの体はほんのり紅潮し、わずかだが汗をかいている。さゆりの膣穴からは蜜が遠慮がちに溢れてきている。クリトリスがが包皮から顔を出した。啓吾は体勢を変え、左手でクリトリスを、右手で膣穴の入り口をいじり始めた。ああっ、気持ちいい、さゆりが身をよじる。蜜でぐしょぐしょになった膣穴が少しづつ開いてきている。左手中指で皮の剥けたクリトリスをいじり回し、右手中指でひらきかけた女性器の膣穴の入り口を茶碗の縁をなぞるようにかき回した。さゆりにはこんなところまで触られたのは初めての経験だった。啓吾は自分が触ったことがないところまでいじり回している。体が熱くなりじんじんする。蜜が流れたのはこんな感じのときだ。今の自分の女性器はだらだらと蜜を流し続けているのかと少しだけ恥ずかしくなった。啓吾が大量に溢れてきた蜜を中指に絡ませて、クリトリスの頭を緩急をつけていじりまわすと、さゆりに限界が訪れた。たまりにたまった快楽がダムを決壊させたのだ。ああっつ、だめ、だめ、らめ〜とさゆりは叫びながら行ってしまった。さゆりには全身に電気ショックがはしる感じだった。しらないうちに体ががくがくと震えている。まだ、女性器が火照っている感じがした。

「行ったな。さあ、これからも行くぞ。女は何回でもいけるからな」

啓吾はうれしそうだった。周りから見ると怒っているみたいにみえるみたいだがさゆりにはわかる。啓吾が勃起したクリトリスを弄り回すと、さゆりの快楽が、火の残った消し炭にふいごで空気を送った時みたいにまた燃え上がった。啓吾はクリトリスをこりこりと押しつぶし、膣穴の縁や、浅瀬を茶筅みたいにかき回す。けっして奥まではいれない。さっき行ったおかげで、膣穴が開きかけている。小指ぐらいは入るだろうか。だが、焦ってはいけない。奥をいじるよりもまずは浅瀬だ。かき回すたびに蜜がどばどばと溢れてくる。最初は遠慮がちだったのに、今は洪水みたいだ。

ああっつ、行っちゃう、行っちゃう、膣穴の浅瀬をいじり回されたさゆりは、我慢できずに行ってしまった。体は、汗が滴り、ほんのり赤く上気している。息があらくなっている。熱くなったさゆりの体からは甘酸っぱい若い女の香りが漂う。

「まだだ。1年後には俺のちんぽが入るようにしないといけないからな」

は、はい、とさゆりは小さく頷いた。啓吾はさゆりのクリトリスと膣穴にとりかかった。女性器はバラの花みたいに花開いている。朝露みたいに蜜が滴っている。啓吾は女性器の頭にある、固く勃起したクリトリスを舌でぺろぺろと舐め回した。射精のある男とちがって、射精のない女のクリトリスはいってしまっても固いままだ。何度か舌で舐め回すと、またさゆりは行ってしまった。啓吾は膣穴でも丁寧に入り口をかき混ぜてさゆりを何度も行かせた。蜜が少なくなってきている。そろそろさゆりも限界みたいだ。男の射精みたいな出口をもたない女の快楽は、体力がつきるまで体の中を走り回るのだ。さゆりは体力が限界みたいだった。啓吾はさゆりをベッドの上に起こした。

「次は、俺を気持ちよくしろ。その可愛らしい口でな」

啓吾はトランクスを脱ぐと巨大な、固く勃起したちんぽをさゆりの目の前に持っていった。

「さあ、くわえろ」

さゆりは男のおちんちんなどちゃんと見るのは初めてだったし、舐めろといわれても口で咥えるのは嫌だった。啓吾が巨大なちんぽを閉じたさゆりの口に押し付けてきた。さゆりは覚悟をきめた。これは妻の務めなのだ。ちんぽが入らない私では啓吾さんを満足させてあげられないのだ、だから口で舐めて満足させてあげるのだ、これは妻の務めだ、さゆりは自分にいい聞かせて、啓吾の巨大なちんぽを咥えた。口の中に青臭い嫌な匂いが充満する。それでも我慢だ。さゆりはちんぽの先を舐めた。

「こうするんだ」

啓吾はさゆりの頭を両手でしっかり掴むと、さゆりの頭を前後させた。巨大なちんぽが喉奥をつき、吐きそうになった。啓吾が両手をはなすと、さゆりは自ら頭を前後させた。丁寧にちんぽの先を舌でぺろぺろと舐め回しながら頭を前後させた。何度か吐きそうになったが我慢した。

「いくぞ、さゆり、激しく頭をふれ。いったらちんぽを綺麗にしろ」

さゆりは先を舌でペロペロ舐めながら、頭を前後に動かした。啓吾はあっという間に我慢の限界を迎えた。さゆりの口の中に射精した。さゆりは口の中に生暖かいものが広がっていくのがわかった。啓吾さんが射精したのだ。嫌な青臭い匂いが口いっぱいにひろがり鼻腔を抜けていく。さゆりはちんぽを咥えたまま、舌で啓吾のちんぽをぺろぺろと舐めてきれいに掃除をした。口の中にひろがった啓吾の精液をごくりと飲み干し、舌できれいに拭いとった精液も飲み込んだ。ちんぽをきれいにすると、口をはなして、啓吾ににっこりしてみせた。人に優しくしてもらったら、優しくしてあげなさい、さゆりが幼い時になくなった母の言葉だった。啓吾はさゆりをやさしく何度も行かせてくれた。さゆりを乱暴に扱わなかった。だから、啓吾が気持ちよくなるのを手伝ってあげるのはさゆりには当然なのだ。啓吾のちんぽを掃除して、きれいにしてあげるのも妻の役目なのだ。

「楽しかったろう?痛くなかっただろう?さゆりのおまんこは1年後には俺のちんぽがはいるようになるよ。一緒に楽しもうな」

さゆりは、はい、と答えた。

「汗をかいたから一緒に風呂にはいるぞ」

はい、と返事をしたさゆりを啓吾はかかえた。風呂場につれていった。カランの前でさゆりは汗まみれの体と長い髪を洗った。となりでは啓吾が体をあらっている。改めて見るとすごくおおきい。刺青は入っていなかった。啓吾がちらちらをさゆりを見た。その度にさゆりはにっこりした。

さゆりは啓吾と一緒にお風呂に入った。さゆりは仰向けで啓吾のお腹にのり、まるでらっこだった。啓吾は両手をさゆりの膨らみかけた胸の上においた。

「さゆりと一緒にお風呂に入れるなんて幸せだな」

そういって啓吾はさゆりをだきしめた。

「私もです。せっくす、ちょっと怖いけど頑張ります」

「さゆりは可愛いな。せっくす、よかっただろう?気持ちよかっただろう?」

はい、とってもとさゆりが答えた。さゆりは体を反転させて、啓吾の体の上で四つん這いになった。

「こんなにやさしくしてくれてありがとうございます」

さゆりは啓吾の唇にキスをした。

お風呂場をでると、啓吾は脱衣場の棚をあけた。いろいろな生理用ナプキンやおりものシートが並んでいる。

「美奈子さんに頼んで、いろいろな種類を用意させた。気に入ったのがあったらいくらでもかってやる、今日はまだおりものシートだな。好きなものを選べ」

 さゆりはいつも使っているものではなく、使ってみたいと思っていたものを選んだ。さゆりの家は貧乏で、生理用品はけっこうするので、お小遣い(ほんのわずかだか)のほぼ全てが生理用品に消えていった。わずかなお小遣いでたのしむ余裕などなかった。買った生理用品も頻繁に取り替えることはできなかった。本当はそうした方がいいのだが、経済的に無理だった。啓吾と結婚して、お金を気にせずに生理用品を使えるのはうれしかった。啓吾が自分の生理用品にも気を配っていることを気持ち悪いなどとは微塵も思わなかった。逆にそこまで思われて幸せだとおもった。

バスタオルできれいに体をふいたさゆりを、裸のまま、さゆりの部屋に連れていった。

「お前の洋服を取ってくる。髪を乾かしてまっていろ」

そういうと啓吾は部屋からでていった。ドライヤーはきれいな三面鏡の上に乗っていた。ドライヤーも高級そうなものだった。風がでればいいというさゆりが使っていたものとは雲泥のさだ。さゆりは全裸で、ベッドに腰掛けてドライヤーで髪をかわかした。部屋中にシャンプーのいい匂いがただよった。バスローブを着た啓吾が服を持って入ってきた。さゆりの隣にすわった。

「さゆりはいい匂いがするな。今日はここで眠るか?なら、おれは行く」

 さゆりは啓吾の太い腕をつかんだ。

「一緒にねむりたい。妻になったんだもの。まずはシーツを新しいものに変えましょう」

さゆりは巨大な啓吾のベッドで、啓吾のそばで丸くなった。さゆりはとても幸せだった。啓吾さんのいうことならなんでも聞こうとおもった。それが妻の役目なのだから。啓吾のそばは暖かくて気持ちがよかった。ぬくぬくだった。啓吾はおっかないけれどさゆりにはやさしいのだ。それが嬉しかった。幸せな気持ちで、さゆりは深い眠りに落ちていった。

第2話

第3話

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